秋たけなわのパリより 2007年10月 刊発売
2008年4月8日 Profile : the Letters
皆様、お元気でいらっしゃいますか?
日・タイ修好120周年記念のための日本・アセアン・フェスティヴァル・オケ、九州交響楽団、釜山市立交響楽団、江蘇交響楽団(中国)合同によるアジア・フレンドリー・コンサート、第7回アジア・オーケストラ・ウィークでのインド・スリランカ・オケのコンサートと、どっぷりアジア漬けの2週間をバンコク、福岡、東京で過ごしてパリに戻って参りました。
陽射しの角度が傾き、ひんやり緊まって乾いた大気が漂う秋のパリは、マロニエの葉も色付き始めて、私が一番好きな、落ち着いた街並となって居ります。アパルトマンのサロンにあるソファに座って、パイプを燻らせながら読書を楽しむ午後のひとときは、何よりのリラックス・タイムです。といっても、今回の一週間だけのパリ滞在では、そんな息抜きは、ほんの数時間しか取れそうにありませんが。
35年前に渡欧した際、全く単純に、25年間日本に居たのだから、同じ25年間ヨーロッパに居れば、ヨーロッパについて、少しは何か判るかも知れないと思って居りました。日本人作曲家の作品にも素晴らしい曲はありますが、何といっても、レパートリーの90%以上は、ヨーロッパで生まれた作品です。フランスの風景は持って行けないけれども、楽譜は持ち運び出来るから便利だネという画家の友人も居りますが、オタマジャクシの行間や背後にある何かを把握しようとすれば、やはり創作現場の風土、雰囲気を知る事が必要不可欠なのです。例えば、一日に何分の間しか顔を出さないか弱い陽の光、しかし、その短く脆い光こそが生きている証でもあるスカンジナヴィア地方の厳しい冬を体験しないで、シベリウスのピアニッシッシモでなおかつエスプレッシーヴォな旋律を感じる事は、私には出来そうにありません。
理解度はともかく、アルベール・カミュを耽読していた生意気な高校生の頃、秘かに抱き悩んでいた「日本人の自分に、はたして西洋音楽は可能か」という疑問は、還暦を迎えた今になって、丁度、ソナタ形式の再現部のように回帰して参りました。
勿論、再現部は呈示部のコピーではないし、その間には展開部を経ている訳ですが、一番の問題は、一体、この曲が後、何ページ、何小節残っているのか、終止符がどこに有るのか、全く予測がつかないので、全体像とその構成が掴めない点です。
来週から、東京、バンコク、ジャカルタと移動して行商を続け、11月中旬には、又、一週間パリに戻ります。
毎度の事乍ら、取留めのないお話になってしまい申し訳ありません。
12月のコンサートのお知らせを、同封させて戴きます。
12月18日、19日には、東京シティ・フィルとバンコク交響楽団の合同演奏会をバンコクで開き、クリスマスと正月はパリで迎える予定で御座います。その頃には、気温もぐっと下がって、生ガキがおいしくなっている事を期待して居ります。
今後共、どうぞよろしくお願い申し上げます。
パリにて、矢崎彦太郎